2019年度全国農業新聞連載「戦略論のウラの裏側」Ⅹ

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★「臭いものには蓋」が横行?
★「諦めない自治体」も一部に



 
 今年度の連載は「戦略論のウラの裏側」と題して、筆者が平素の講演では話しにくい、地域農業の特殊な事情や本質的な課題を戦略発想体系に沿って全般的に書いていくつもりだった。

 だが、書き進めていくうちに、戦略発想体系の「①環境変化」から「②行動単位」の間に潜む「ウラの裏側」があまりに多すぎて、「③自己分析」以降に進めないまま、最終回を迎えてしまったことは誠に申し訳なく、読者には深謝するしかない。

 ただ、①~②の間にある問題は地域戦略の最終的な成否を決する重要部分であり、否応なし筆者も神経質にならざるを得なかったというのもホンネである。

 その理想を書けば――まずは地域の政治的環境を正常化し、無責任体質の集権制や平等意識を排除し、真に才覚ある人材をリーダーに組織編成する――となるが、筆者の経験から言うと、大方の地域がこうした重要課題の抜本的な解決を避け、「臭いものには蓋」で回避したままハード事業の整備だけに執着してきた…と受け止めざるを得ない。

 かつての経営構造対策事業が地域に戦略的な波及効果を生むことなく、各地ともに「いっときの打ち上げ花火」で終わったのも究極的にはそこに原因がある。

 経営構造対策事業は情報収集や地域合意形成などソフト事業も十分に用意された施策であったのに、その戦略的な価値と体系を理解せず、政治的・組織的な課題を克服することもなく、「集出荷・加工・直売・飲食・宿泊」といったハード事業に心奪われ、思いつくまま自らに都合よく、しかも単発で何の脈絡もなく断片的に導入整備してきた、その結果であったろう。

 ゆえに、こうした「地域ぐるみ」を諦めて、先進的農家だけを「一本釣り」するように登場したのが今の6次産業化ではなかったか…。

 だが、それは「地域から個人へ」「面から点へ」と方針を大幅に後退させた飛沫的な作戦に過ぎず、十数年後には生産者の激減で消滅の危機にさえ直面しそうな日本農業にいかほどの効果をもたらすのか、はなはだ疑問と言わざるを得ない。

 だからこそもう一度原点に立ち返って、地域戦略を根本から――と言いたいところだが、多くの地域に「臭いものには蓋」の慣習が横行する限り、これもしょせん無理な話であろう。

 …とは言え、その一方には、戦略の本質を理解し、幾多の困難に悪戦苦闘しながらも諦めることなく、地域の戦略的活性化を地道に目指そうとする自治体が、ほんの一握りながら県内に存在するのもまた事実だ。

 いずれは、そんな自治体の紹介も含めて③以降の「ウラの裏側」を当連載で執筆できれば幸いである。







2019年度全国農業新聞連載「戦略論のウラの裏側」Ⅸ

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★地域リーダーに必須の資質
★「人材育成こそ」を理念に




 幅広い視野と見識、想像力や指導力を持つ人材こそ地域戦略のリーダーにふさわしい――それは大げさに言えば、大国に攻め込まれた弱小国がいかにしてこれに立ち向かい生き抜くのか、そんな戦いを指導するリーダーの才覚――にも通じるものがあるだろう。

 19世紀の戦略家クラウゼヴィッツは、その著書「戦争論」の第一篇・第三章「軍事的天才」で、戦略指導を司るリーダーに必須の資質を、「勇気と知力に満ちた人材であることが絶対条件」とした上で、「勇気と知力」を次のように解説した。
 
 まず、「勇気」とは「肉体的危険に対する勇気」と「精神的(責任)危険に対する勇気」の二つがあり、特に後者の勇気は「愛国心や名誉心に由来」するという。

 一方、「知力」とは理性や感情など精神力の複合性を背景とする「高度な知的能力」であり、要点を書くならば、それは――断片的で不確実な情報氾濫の中にあっても、予期せぬ状況に遭遇しても冷静さを失わない「自制心」、そして全体の真相や未来を一瞬で看破する「眼力」や「想像力」、即断即決できる「決断力」、さらには苦境に陥った際でも重圧に負けず、周囲をいっそう鼓舞する「意志力」や「不屈性」である――という。

 これを地域戦略のリーダーに置き換えるなら、後者の勇気で意味する「責任」とは「地域」に置き換わるし、「愛国心」は「ふるさと愛」になる。
 さらに知力は、これらの指摘がおおよそ当てはまることになるが、果たして、そんな人材が今の農業界にいるのかどうか…。
もちろん、戦争ではないから「そこまで完璧に」とは言わない。ただ、「それに近い人材」は存在する。

 筆者の狭い人脈の中から一人を例を掲げるなら、石川県農業会議の元職員・松本友信氏の推薦で知り得た、「㈱六星」(白山市)の元社長・北村歩氏(77)だ。

 今は高齢で引退したが、40年前にわずか5名で立ち上げた地域組織を紆余曲折ながらも「人材育成こそ地域貢献」を理念に、150名余を抱える地域農産企業に育てたリーダーである。

 こうした例が全国的にも極めて少ないのは、北村氏の存在がそれだけ「稀有」だったことを示すが、農業人口が激減する今後、そんな人材を農業界に求めるのはますます難しいだろう。

 ならば、地域の産業界にも広く目を向けて、理にかなった人材を発掘することも躊躇すべきではない。なぜならば、地域戦略の最終的な成否とは結局、「リーダーの才覚」いかんですべてが決するからである。


2019年度上州アグリ100年ブランド協議会主催の講演会で。左が北村歩氏、右は松本友信氏。
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